あたるとラムの年末年始


もういくつ寝るとお正月、などと言っているうちに年は明けて元旦。と、その前に諸星家の年末の様子をちょっとだけのぞいてみたいと思う。

「ダーリンは年賀状、もう書いたっちゃ?」

「そういうラムはどーなんだ?」

「UFOでプリントアウトして、もう出したっちゃ。で、ダーリンは?」

「何だよ、もう出したのか…」

「だからダーリンは書いたのけ?」

「何でそんなに同じ事を聞くんじゃ」

「だって気になるっちゃ。終太郎やメガネさんたちに新年の挨拶しなくて、いいのかな〜って」

「…何で新年の挨拶をむさい男子どもに出さにゃーならんのじゃ」

「女子には出したのけ?」

「…そういう事…。お前は女子に出したのか?」

「しのぶとか竜之介とか、ランちゃんとかサクラとか…そのくらいかなぁ」

「オレは貧乏だからなっ、男にまで余計な出費をするほどの余裕なんぞ無いっ」

「でも女子全員には出したんでしょっ!?…どーせ返事が目当てだっちゃ。でもダーリンに年賀状出す女子なんてどのくらいいるかなぁ〜」

「オレが1枚1枚寝る間も惜しんで書いた年賀状だぞっ!?必ずや感動して、全員から返事が来るわっ!」

「それじゃあ賭けてみるけ?」

「何を!?」

「ダーリン宛にクラスの女子から何枚年賀状が来るか〜…そうだっちゃねぇ、1枚も来なかったらウチの勝ちだっちゃ」

「ふふ〜ん、それならオレの圧勝じゃ。絶対ごっそり来るはずじゃ。で、ラムが負けたらどうするんだ?」

「ウチが勝ったら、冬休みに必ずデート!それもダーリンのおごりで、だっちゃ。お年玉もらえるでしょ?」

「んじゃオレが勝ったら、冬休みの間はオレがガールハントしても絶対怒らん、ってのはどうだ?」

「わかったっちゃ、その賭け乗ったっちゃ。ぜーったいに1枚も来ないっちゃ!」

「そんじゃ正月3日間のうちにオレ宛に来るかどうか…ふっふっふ…冬休みはガールハント三昧じゃーーーっ!!」

そんなわけで、“あたる宛の年賀状が1枚以上来るかどうか”という賭けをして、ふたりは正月を迎えたのであった。そして1日目。

「…どれもこれもラム宛ばかりではないかっ…」

「どーしたっちゃ、ダーリン?ダーリン宛の年賀状、あったけ?」

「母さーん、年賀状ホントにこれだけ?」

「今日はそれだけよ」

(くっそ〜〜女子どころか男子すらオレ宛に年賀状寄越しとらんじゃないかっ。どれもこれも“諸星様方 ラム様”…これも、これもこれもっこれもっっ!!…面堂からのは嫌味たっぷりじゃな〜、何じゃこの悪趣味な金一色の年賀状はっ)

「今日はダーリン宛のは無いっちゃねぇ〜あと2日だっちゃ。デート楽しみだな〜ルンルン♪」

「…くっそ〜〜こうなりゃ実力行使じゃ…」

と、あたるはぼそっと言うと電話をかけ始めた。

「あ、もしもし〜百恵ちゃん?オレ〜諸星だけど〜♪年賀状届いてるかなぁ〜?そっ、オレの愛が一杯込められた新年の挨拶だってぇ〜♪…あっ、もしもし、もしもしっ!?…何じゃ、切れたっ」

そしてあたるは片っ端から、クラスの女子やランやサクラ宛に電話をかけまくったのだが…。

「…ったく〜、留守だの、いきなり電話切るだの…皆、照れ屋なんだから〜もうっ」

と、ラムには予想がついていたが、こんな調子であった。そして2日目。

「あ、もしもし、しのぶ〜?オレだけど。年賀状届いてるだろ?あたるクンの愛が一杯こもった〜…え?年賀状の余りがもう無い?またまた〜そんな事言っちゃってぇ〜、照れるなって、オレとしのぶの仲だろ〜?」

『結局返事が欲しいだけなんでしょ?あたる君』

「そっ!そういう事っ!なぁ〜しのぶぅ〜そこを何とか〜1枚くらい余ってんだろ?」

『とにかくもう余りが無いのよ。ごめんなさいね、また来年、って事で』

“ガチャッ”

「…そうか…年賀状を出すとラムがヤキモチ妬くから、という、しのぶなりの愛情表現なのだ、これは…うん」

「今日もダーリンには1枚も来なかったっちゃねぇ〜♪」

「まだ明日があるわっ!」

そして3日目。

「今日電話してももう間に合わんし…来るのを待つしか無いわけか…これではラムの思う壺ではないかっ…そうじゃっ」

あたるは何か思いついたらしく、簡単な身支度をすると、いそいそと出掛けていった。

「ダーリン、ダーリン?…んもう〜どこ行ったっちゃ、ダーリン」

それからしばらくして。

「ただいま〜…ふっふっふ…ラム〜、今回の賭けはオレの勝ちじゃっ!ほれ、見てみろ、1枚年賀状が来とったぞーーーっ!!」

「…なーんかあやしいっちゃねぇ〜、ダーリンが出掛けて、帰ってきたら来てたなんて。ダーリン見せてみるっちゃ!」

「だめっ!これはオレ宛に来たやつだから、見せられんっ!」

「見せられないワケでもあるのけ?例えば〜自分で書いたとか」

「(ギクッ!)んなワケあるかっ!」

「じゃあ誰から来たのけ?」

「しっ、しのぶからじゃ、しのぶからっ!」

「やーっぱり怪しいっちゃ。見せてみるっちゃ!ダーリンッ!」

そしてふたりは“あたる宛”に来た年賀状の取り合いを始めた。そこへテンがふわふわと飛んできた。

“ぎゅむっ”

「…あ、テン」

ふたりの“年賀状争奪戦”の最中(さなか)、ちょっとしたはずみで、あたるがテンを踏んづけてしまったのだ。

「…こ、このぉ〜アホ〜ッ!何さらすんじゃーーーっ!!」

“ゴォォォォォーーーーーーッッ!!”

そしていつもの如く、テンがあたるに向って炎を噴いた。

「あちっ、あちっ、あちーーーーーーっっ!!」

「ワイを足蹴にしよって、詫びも入れんからやどっ!どや、参ったかっ」

「…あーーーーーーっっ!!」

「何や、どしたんや?」

「ね、年賀状がぁ〜〜…」

「年賀状がどないしてん?」

「ジャ…ジャリテーーーーンッ!よくもオレの大事な年賀状をーーーーっ!!見ろっ、この黒く燃え残った無残な姿をっ!!」

「な、何や、年賀状の1枚くらい、どーってこと無いやろ?」

「オレにとっちゃ〜命の次に大事な年賀状だったんじゃーーーーーっ!!」

「命の次、ってどういう意味だっちゃーーーっ!」

「ラム、とにかくっ!1枚来た事は確かだったんじゃ!それがこんな有様では、もう誰から来たのか、なんつー事はわからんだろっ!?しかし確かにっ!オレ宛に来たんじゃーっ!それをまだ疑うかっ!?疑うっちゅーのかっ!?」

「むぅっ…それじゃあ証拠隠滅だっちゃ!わざとテンちゃんにケンカ仕掛けたんじゃないのけっ!?」

「この状況でまだそんな事を言うかーーーーっ!!大事な年賀状が、賭けの勝ち負けを決める年賀状が燃えてしまったんだぞぉぉぉ!この勝負、オレの勝ちじゃっ!」

「何でそうなるっちゃっ!」

「来た事は確かなんだからなっ、オレの勝ちっ!ラムの負けっ!」

「証拠隠滅しといてよく言うっちゃ!この勝負引き分けだっちゃ!もう本物かどうかなんて確認出来ないんだしっ、百歩譲って引き分けにしてあげるっちゃ!」

「引き分け!?引き分け…っちゅー事は…お前とのデートは無し、しかしガールハントしたら怒るって事か?」

「ガールハントしたら超ド級の電撃お見舞いするっちゃ!」

(くっそー、これでは自分で用意した意味が無いではないかっ、ジャリテンのやつぅ〜…)

そんなこんなでふたりの“年賀状賭博”は終息したかのように見えた。…が。


1月4日になって、あたるの元に1枚の年賀状が届いた。差出人は…不明であった。

「ふっふっふ…どうじゃ、ラムッ!オレ宛に年賀状が1枚来たぞっ!」

「だって勝負は3日までだっちゃよ」

「3日だろーが1日遅れだろーがっ!来たものは来たっ!これでオレの勝ちじゃーーーっ!」

「どーしてそうなるっちゃ!」

「もしかしたら1日遅れで届いたかもしれんだろ?いや、きっとそうじゃ!抽選でも何でも“当日消印有効”とあるだろ!?だからこれも当日消印有効っ!っちゅー事でオレの勝ちっ!」

「何だっちゃ、その理屈はっ!3日までに届いたのが勝負の対象だったはずだっちゃ!当日消印有効、って何だっちゃ!年賀状に消印なんか入って無いのにっ」

「とにかくオレの勝ちと言ったら勝ちなのっ!これで思う存分ガールハントが出来る、っちゅーわけじゃっ」

「変な理屈でごまかそうとするんじゃないっちゃーーっ!もうーーーっ!!」

「というわけで〜オレはこれからガールハントに行ってくるっ!邪魔しようなんぞ思うなよっ!くれぐれも言っとくがっ」

「そうはさせない…ちゃっ!」

あたるは身支度のため脱いだ服をラムに投げ、それで彼女の気を逸らして、まんまと表に出て行ってしまった。

「ダーリンッ、ダーリン!んもう〜〜!」

ラムはあたるの屁理屈と外出してしまった事で怒り心頭だったが、彼の机上にあった年賀状を見て「あれ?これ…」と言った。そして“くすり”と笑うと、「しょうがないっちゃねぇ…」と言って、UFOに戻っていった。

そしてとっぷり日も暮れた頃、あたるは寒そうに背中を丸めて、帰ってきた。

「ただいま〜」

自室に入るとラムがいた。

「げっ、ラム…」

「なーにが“げっ”だっちゃ。おかえり、ダーリン」

ラムの様子は至極穏やかそうで、怒っている風でも無い。それどころかにこやかにあたるを出迎えたのだ。

(何じゃラムのやつ…怒ってる様子も無いが…どうしたんだ?)

「ダーリン、寒かったでしょ?」

「まぁな」

「今お部屋あっためるっちゃ」

「ああ…(ラムのやつ、何か企んどるんでは無いのか?)」

「どうしたっちゃ、ダーリン?変な顔して」

「別に変な顔なんかしとらんぞっ」

「それにしても毎年早いっちゃねぇ。来年や再来年はどんな年になってるのかなぁ…」

「来年の事言うと、鬼が笑うと言うぞ。あ、お前鬼だったな。…笑うのか?来年の話聞くと?」

「何言ってるっちゃ?何でウチが来年の話聞いて笑うのけ?」

「いや、昔っから日本ではそう言うからなぁ」

「ふーーーん、そうなのけ」

(しかし来年、再来年ねぇ…ラム、とは…一体どうなっとるんだ?このまま…何も変わらず…って事は無いだろうしなぁ…。まぁ、なるようにしかならんか…)

新年早々から来年や再来年の事を考えるあたるだったが、結局ラムに関連した事柄になってしまう。ラム以外の女性の事はというと…ラムとのこんな会話をしていない時に、ハーレムの夢を思い描くのである。

そして夜、ぐっすり眠ったあたるを押入れから見下ろすラム。

「…今年…こそ〜…サクラさ〜ん、竜ちゃ〜ん、しのぶ〜、ランちゃ〜ん…」

「ぐっすり眠って…きっとハーレムの夢でも見てるっちゃねぇ…。本当にしょうがないっちゃねぇ、ダーリンは……くすっ…」


そして翌日、あたるの部屋にて。

「ダーリン」

「何だ?」

「ダーリン宛に来た年賀状、ちゃーんと読んだのけ?」

「そりゃちゃーんと読んだわっ」

「何て書いてあったのけ?」

「んな事、何でラムにイチイチ……あけましておめでとうございます、だろ?」

「だろ?って何でこっちに聞くっちゃ」

「だからそう書いてあったのっ!」

「ふーん…そうけ」

「何だよ、その言い方は。違うとでも言いたそうだな」

「だーって、よーっく見てみるっちゃ。ほら」

「…何々?“ワイからの年賀状や、アホに出してあげました。今年は負けません。テン”…何じゃこりゃ」

ラムは口を押さえて、笑いを堪えてそれを聞いていた。が、遂にガマン出来なくなって、足をばたつかせながら大笑いした。

「テンちゃんが〜、日本語憶えたい、って言うから〜…それじゃあ、ダーリンに年賀状でも…出したらどうけ?って〜〜」

「…ぶっ…お、お前なぁ〜〜っ!」

「あー、可笑しかったぁ〜♪テンちゃんからの年賀状でも、嬉しいでしょ?ダーリン♪」

「…ふんっ、ジャリテンからもらったところで嬉しくも何とも無いわっ」

「テンちゃん一生懸命書いてたのになぁ〜〜“アホの驚く顔を見たるんや〜”って」

「ラムとジャリテン、ふたりして何考えとるんじゃ…ったく」

そしてあたるは年賀状を机の引き出しに放り込むと、仏頂面をして階下に行ってしまった。

「それからこれは、ウチからの年賀状♪後で気が付くかなぁ〜、ダーリン」

ラムは1枚の年賀状をあたるの机の上にそっと置いて、UFOに戻った。

【大好きなダーリンへ。今年もよろしくお願いします。そして来年も、再来年も、ずっと。】

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